07/29

梅雨明け宣言が出てから10日ほど、明らかに気象庁が早まった感が強い梅雨空が続いている。渇水気味だった渓にも恵みの雨になったのだろうか。しかし、降っている中での渓流釣りはあまり気持ち良くない。できれば晴れてもらいたいものだ。

そんな梅雨空を恨めしく思いながらプチ遠征に出かけてみた。場所は新潟県、魚野川水系。
前の晩の天気予報では「午前中は曇り一時雨。午後から雷を伴い強くふる地域もあり」とのことだった。「これは秩父だな」と車中泊の準備を片付け、目覚ましを3時にセットして眠る。
目覚めてから天気予報を見ると若干だが新潟の降水確率が下がっていた。「どうする?」30分以上悩むが「降られたら危ないし」ということで秩父に向かった。
しかし車に乗って3kmほど走ったところで「ダメもとで行ってみよう!」と考えも車も方向転換。一気に新潟に向かった。
新潟手前のトンネルに近づくとあきらかに怪しい雲で山が見えない。この山の向こうが今日の目的地。

トンネルを抜けると雨は止んでいた。「こりゃ、ラッキー」とインターチェンジを降り、コンビニエンス・ストアで釣券(2100円)を購入。「これで雨で帰ったらバカみたいだなぁ」と思いながら地図を片手に車を走らせた。
途中にある橋で何度か川の状況を見ると若干の濁りが出ているので雨は降っていたようだ。
予定していた車止めより手前に車を停めた頃、突然、土砂降りとなる。「なんだよぉ!」と空を見上げると黒い雲が次から次へと早いスピードで流れていた。10分ほど待つと小降りになったのでレインジャケットを着て林道を登る。
渓に降り立ち釣りを始めて10分ほど、フライのメンテをしていると足元に細かいゴミがうち寄せられていた。上流を見ると今までと違う色の水が落ちている。さっき飛び移ってきた石が水に沈んでいるではないか。慌てて林道がある対岸に渡り、少し高い場所で状況を見る。20分ほどで水は落ち着いた。おそらく取水堰堤が越流したのだろう。
その堰堤まで全く反応が無く、堰堤上に出て驚いた。「凄い水量」近づくと川岸にあるフキが水没している。50cmほど増水しているようだ。これでは釣りにならない、いや恐くて遡行出来ない。そそくさと林道を降り、違う渓に向かう事にした。
しかし、違う渓には同じような物好きがいてダメ。次の渓は砂防堰堤工事をしていてダメ。結局、同じ渓の下流をやろうと戻ってみた。
一時間ほど経った渓は驚くほど水量が少ない。堰堤上も同様でどうにか釣りが出来そうだ。
取水堰堤上からは魚も走りよい感じ。フライへの反応も出てきた。この頃から新しい竿にも慣れてきて、フライが狙いの半径1m以内に入る確率が上がってきた。いつもよりいいぞ(笑。
なんどか合わせ損ねを繰り返し、やっと釣れた。可愛いイワナ。普段、イワナよりヤマメが多いところで釣ってるので合わせが早すぎるようだ。頭を出してフライに飛びつくイワナもいたけど、口に入る前に合わせてしまったみたい。いいサイズだったのに。このあとから「一呼吸待って、一呼吸待って」と言い聞かせることにしたが、なかなか難しい。ロッドを煽って合わせるのって反射神経みたいな感じだからだろうか。その後も何度もよいサイズを合わせ損ね悔しい思いをしながら遡る。

空模様は相変わらずで土砂降りにはならないが降ったり止んだり。雲の流れもかなり早い。いつ土砂降りになり増水しないか心配だ。流されて死ぬ人のニュースを聞く度「辞めてればよかったのに」と思うが今回の釣行で少しだけ気持ちが分かるような気がした。

そんな欲深い人間のフライにも魚たちは飛び出してくれる。でも針掛かりしない。フライに出た後、ゆっくりと反転していくイワナもいたりして「欲で針先が溶けて甘くなってるんじゃないですか」とでも言いたげだ。

そんなあざ笑うような大人なイワナではなく、純粋無垢な子供が遊んでくれた。
「バシャ!」と激しく出て一瞬だけ竿を絞り込む。その後は「ピョコーン!」と抜き上げてネットの中に。
カメラの準備をする間、岸際でモデルさんは待機。準備の間は大人しいのにカメラを構えると暴れ出す。なのでいつもこんな感じの写真。小さいから余計に暴れるのだろうか。
時間を長く掛けて撮影すればよいのだろうけど、俺にはそれが可哀想で出来ない。このままリリースしたって、そのうちの何割が生きていけるのかにも疑問を持っているくらいだから。

このイワナをリリースした後から雨足が少し強くなる。目の前にスリット堰堤と呼ばれるこれから主流になるであろう砂防堰堤が見えてきた。「あそこまでにしよう」と決めて良さそうなポイントだけ丁寧に打ち込みながら歩く。しかし、それさえも許してもらえない程の雨が降ってきた。堰堤まで急ぐ為にフライをピックアップせずに岩を二つ飛び、フライラインを手繰ると竿がしなる。「いやー引っかけちゃった」とラインの先を見るとイワナが走っていた。

しかし、そこでテンションが無くなりフライが宙に舞った。一瞬の間を置き自然に笑いがこみ上げてきた。久しぶりに大声で笑った。土砂降りの中で大声で笑った。
「もう仕舞おう」何の未練も無くティペットを切りラインをリールに巻き取る。リールのクリック音も小さくなるほどの土砂降り。なのに先程までの恐怖心、緊張感は薄れいた。岩をいくつか飛び移り、股下ほどの徒渉をして堰堤のハシゴを登った。
その雨は林道を下る途中で弱まり降ったり止んだりを繰り返す。カメラを持って歩きたいがそれを拒むようだ。それとも「防水カメラ買っちゃいなよ」と言ってるのだろうか。カメラを買うなら、ここに何度か通いたい、そんな気持ちが湧いてきた。
秩父の苔生した薄暗く狭い渓もいいけど、明るく開けた渓のほうが今の俺には良さそうだ。

さぁ、車まで急勾配を下るぞ!
その勢いで帰りは下道だ!
結局、下道では我が家にたどり着くまでに4時間半。高速を使えば2時間弱...。前日にフジロックが開催された苗場を空しく通過。調子の悪い妻の車に三国峠はきつかったようだ。
次回は半額になるまで釣りをしよう。